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2020年07月04日

【CDレビュー】上海アリス幻樂団「蓬莱人形 ~ Dolls in Pseudo Paradise」~ダークで重厚な魅力のある音楽世界~







「蓬莱人形 ~ Dolls in Pseudo Paradise」の魅力


 今回CDレビューとして紹介するのは、「東方Projectシリーズ」で有名なZUN氏主宰の上海アリス幻樂団による音楽CDシリーズの初めての作品「蓬莱人形 ~ Dolls in Pseudo Paradise」、通称「蓬莱人形」だ。
 東方Projectシリーズのファンである筆者だが、特にこのアルバムの完成度は高いと評価している。重厚でダークな、どこか懐かしさを覚えるような、色とりどりの幻想的な音楽の数々が揃ったこのアルバムはファンであるという贔屓目を抜きにしても一つの音楽作品として素晴らしい作品と言えるであろう。全体的に魅力的な音楽が多く評価にあたって甲乙つけがたい上海アリス幻樂団のゲームシリーズ、そして音楽CDシリーズの全ての作品の中でも、少なくとも筆者が一番に挙げるとするならば、この蓬莱人形である。
 なお入手にあたって、このCDには、2002年8月のC62にてCD-R版としてリリースされた通称「初版」と2002年12月のC63にて発表されたプレス版が存在する。前者の「初版」と呼ばれるバージョンは、流通数が非常に少なく、ファンの間ではコレクターアイテムとして高値で取引されている。一方、今日でも容易に手に入るのは、後者のプレス盤である。「初版」とプレス盤では、収録されている音楽に差異はなく、アルバム・ジャケットとブックレットのコメントとが異なるのみ(とはいえファンにとっては貴重なので、だからこそ高値で取引されているのだが)なので、今日このCDを買ってみたいと思う方は、安心して流通しているプレス盤を購入してほしい。また、現在ではiTunesやGooglePlayMusicからも配信されている。
 さてこのアルバムの特徴であるが、東方Projectや上海アリス幻樂団について知らない方、または東方Projectについて若干の知識はあるが、例えば「旧作って何?」と思うような方に向けて解説すると、上海アリス幻樂団による東方Projectと呼ばれるゲームシリーズにはPC-98にてリリースされたいわゆる「旧作」シリーズと、Windowsにてリリースされている現行のシリーズとに分かれており、設定や雰囲気などに差異がある。この蓬莱人形は、その旧作と現行シリーズのちょうど過渡期にリリースされたCDであり、雰囲気的には旧作の香りを残しており、実際旧作シリーズのBGMのアレンジ版も収録されている。上記にも少し書いたが、この蓬莱人形の全体的な特徴は、重厚なゴシック的なものであると言える。軽快な音楽もあるが全体的にはかなりダークな雰囲気で、やや暗く、もの悲しさ、あるいは荘厳ともいえる重厚な音楽が特徴的だ。以下にこの蓬莱人形に収録されている音楽をそれぞれレビューしていく。

1.蓬莱伝説
 このアルバムの導入を担う、アルバムのタイトルとも言えるこの楽曲は、おとぎ話の始まりのような、心に響く音色で始まる。全体的に和風色が強いが、所々で洋の雰囲気も感じるような、和洋折衷というには和のテイストが強めであるが、まさに和洋が入り混じった、東方Projectの舞台である幻想郷にゆっくりと旅立つような、そんなテイストの楽曲である。

2.二色蓮花蝶 ~ Red and White
 前トラックの蓬莱伝説からは一転して、軽快で軽やかな曲である。サビの疾走感、繰り返されるメロディは、王道の、東方Projectを体現するようなシューティングゲームミュージックである。なお、タイトルのRed and Whiteというサブタイトルからもわかるように、この曲は東方Projectシリーズの主人公の一人である巫女、博麗霊夢のテーマ曲の一つとして作られている。ZUN氏いわく、巫女をテーマにした曲なのだが、どう考えても巫女っぽくない曲であると述べているが、博麗霊夢も巫女なのに巫女っぽくはないので、ある意味イメージ通りなのかもしれない。

3.桜花之恋塚 ~ Flower of Japan
 まさに和風、という曲。ピアノが軽快な、桜の花びらが舞い踊るような曲調である。柔らかで落ち着ちついたシックな印象を受ける。明るく楽しくて、筆者もかなり好きな曲である。好きなのだが、不思議な事に、何か上手く言い表せない、それがこの曲の深みなのだろうか。筆者の貧弱な語彙力で言い表すならば、花びらが舞う花の庭園をイメージさせてくれるような、そんな曲である。

4.明治十七年の上海アリス
 筆者の中で東方Projectシリーズでトップを争うほどの大好きな曲である。
 明治十七年、西暦にすれば1884年、東洋のパリとも謳われた上海租界の外灘という新古典主義の西洋建築が建ち並ぶ場所の、重厚かつ華やかで光が踊り煌めく夜の底を駆けていく姿が思い浮かぶような、洋風でありながらどこか東洋らしくもあるまさに東洋のパリ、上海を表したような、重厚なゴシックで威厳すら感じさせる、底なしの深みがある曲である。上海アリス幻樂団というサークルの上海アリスという名前が入ったこの曲は、あるいはまさに上海にて、アリスの幻樂団によって演奏されている曲なのだろうか。
 なおこの曲は、東方紅魔郷の三面ボス、紅美鈴のテーマ曲としての方が有名であるが、じつはこの曲がオリジナルであり、東方紅魔郷の方はアレンジである。

5.東方怪綺談
 この曲はまあ、一聞するとYMOのアレである。しかしながら、この曲は、ZUN氏が東方Projectシリーズを始めるきっかけともなった原点とも言える曲のアレンジであり、歴史が深いものである。また楽曲としても決してオリジナリティに欠けるものではなく、音の使い方からは、ZUN氏独特のものが色濃く現れているし、まさに妖怪変化が現れる怪綺談といったような趣きが表現されていると感じられた。

6.エニグマティクドール
 エニグマティクドール。直訳すると不思議の人形だそうである。非常にお洒落な曲で、ピアノのメロディが美しい。エニグマティク、得体のしれないという意味もあり、確かに掴みどころのなく、この曲についてイメージが掴めて分かったと思ったらそのイメージをするりと交わすような、そんな生き生きとした不思議さがある。

7.サーカスレヴァリエ
 この曲を聴いて思うイメージは、人を弄ぶような変幻自在のパフォーマンスを行う、そして少々危険な匂いがするサーカス団である。切なげであるが、切ない曲であると思うと、盛り上がりを見せ、盛り上がりを見せたと思ったら切なさをこみ上げさせてくるような、妖しげで寂しげな不思議なサーカスである。哀愁漂うサーカスのピエロにうっかり同情すると、たちまち恐ろしい形相をするような、そんな予感のする曲である。

8.人形の森
 タイトル通り、首吊りの死体が吊られていそうな鬱蒼とした恐ろしげな暗い森を歩いていると、遠くから人形遣いの奏でる不思議なメロディが聴こえてくるような曲である。近づくと遠ざかり、遠ざかると近づくような、そんな蜃気楼のような不思議なメロディが聴こえてくるような心地がする曲である。

9.Witch of Love Potion
 先程明治十七年の上海アリスが、東方Projectシリーズでトップを争うほど好きな曲であると述べたが、この曲は筆者の中ではそれと双璧をなす曲である。魔女の惚れ薬、甘くてほろ苦い、危険な劇薬の香りに酔いしれたかのような、空中をふわふわと歩いているかのような浮遊感、そんな浮遊感を味わいながら、どこか切なげで懐かしさを感じるメロディラインに、筆者はすっかり惚れ込んでしまった。もうずっと前に出会った曲だが、何度聴いても飽きない中毒的な作用がある曲である。

10.リーインカーネイション
 リーインカーネイション(Reincarnation)、転生という意味である。リズム感が心地よいメロディをゆったりと駆け抜け、そしてサビの、生まれ変わった新たな喜びを表すかのような盛り上がりは、聴いていて非常に脳内物質が出てくるようである。はっきりと目が覚めるような曲。

11.U.N.オーエンは彼女なのか?
 恐らく東方Projectでも1,2を争う知名度を誇る東方紅魔郷のフランドール・スカーレットのテーマ曲のアレンジである。閉ざされた密室の中でぐるぐると回りながら展開される美しくも恐ろしい惨劇を思い起こさせるようなショッキングな色の撒き散らされた血糊のような過激さ、正体不明のアンノウンが、周りをケタケタと笑いながら聞き手を弄ぶような名曲である。
 なおこのアレンジを原曲と同時再生するのはおすすめしない。とてつもなく不気味な不協和音となる。あるいはそれがこの曲、ひいてはフランドール・スカーレットというキャラクターの狂気を示す真の姿なのかも知れない。

12.永遠の巫女
 曲の頭の雨音、あるいは筆者には拍手の喝采のようにも聞こえる。幕の降りかけた舞台の裏で、演者が役割を演じきって深々と頭を下げながら、深い深いため息をついているような、そんなイメージである。あるいは雨の降りしきる中、永遠というタイトルが示すように、循環するメロディラインが、繰り返される物語を示し、あるいは激しい曲調はそれの終焉を示すかのような、焦燥感に駆られる曲である。このアルバムの中でもトップクラスにダークで、重厚な曲であると思う。
 すでに同じことを言って三度目だが、筆者にとってこの曲は東方Projectの中でトップを争う曲の一つであり、このアルバムだけで筆者の中でトップを争う曲が、明治十七年の上海アリス、Witch of Love Potion、そしてこの永遠の巫女と三つ鼎立していることになる。
 なおこの曲は、東方Projectの旧作の第一作目、東方靈異伝の曲のアレンジであり、ZUN氏も原点であり、自分にとっても衝撃的だった曲と述べている。

13.空飛ぶ巫女の不思議な毎日
 この曲もまた、博麗霊夢をイメージした曲であろう。掴みどころのない、変化する曲調は、博麗霊夢というキャラクターを象徴したようである。飄々とした部分もありながら、哀愁が漂う場面もあり、深い歴史、あるいはまさに不思議な毎日を表すかのような、ふわふわと空を飛ぶ無形の雲のような変幻自在の曲である。
 東方Projectのキャラクターを深く知りたいならば、そのキャラクターのテーマ曲を聴くのが一番の近道だと筆者は思うが、その中でも博麗霊夢というキャラクターを知りたいならば、この曲をきいて、そして知るどころか余計にわからなくなる。それこそが博麗霊夢なのかもしれない。


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voiceofdrone at 15:09│Comments(0)CDレビュー | 東方

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